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- 第33回日本外傷学会総会・学術集会
- 会長 今 明秀
八戸市立市民病院 院長
研修医の皆さんへ
研修医の皆さんは覚えていますよね。
通学中、暴走する車に学童が多数轢かれ死傷者多数。刃物を持った暴漢が市民を切りつける通り魔事件。飲酒運転による交通事故で未成年者5名全員が車外放出され重症。地震による家屋崩壊で住人が救助不能。工場で重量物が落下し作業員が下敷き。奪われたピストルで撃たれた警備員死亡。逆恨みをされた政治家が銃で狙われる狙撃事件。夏祭り露店で起こった爆発事故で爆傷者多数。幼児が道路飛び出しで、車に轢かれショック状態。高齢者の運転する車がコンビニに突っ込み、運転手も店舗の客も重症。新幹線の中で刃物を振りかざす狂人から女性を守るために立ち向かい絶命した勇気ある若者。建設現場で高所足場から墜落した鳶職。深夜運行する満員のスキーバスの横転事故。高校生が部活の練習中に、硬球や円盤が頭を直撃。そして彼らの家族が涙する映像。
わが国で、交通事故、労働災害、暴力事件、自然災害などによる外傷患者は相当数に上ります。外傷により年間約2,000万人が病院を受診し、約120万人が入院し、2万人以上が死亡しています。また、救急車搬送される傷病者の約28%(142万人)を外傷が占めています。目の前に助けを求めている瀕死状態の患者がいる時、皆さんはどうしますか。診療しますか。他人を当てにしますか。逃げますか。気道・呼吸・循環・意識・体温の評価をできますか。生命を救う緊急処置をできますか。
医師免許は何のためにあるのでしょうか。助けを求める市民を救うためではないでしょうか。この学術集会では臨床研修の日常に忙殺されている研修医の皆さんに教えます。瀕死状態の外傷患者に対向かう術を。八戸に集まってください。
外傷専門医を目指す医師の皆さんへ
外傷専門医を目指す若い医師の皆さん。
重症外傷患者では、多くの場合、身体の複数の部位が損傷を受けるため、専門分化した外科系基本領域診療科のみによる対応では、診療が困難な場合が生じます。複数診療科の医師が多数集まって診療を開始しても、治療の順序と構成を誤れば良い結果を得ることはできません。緊急度・重症度の高い外傷に対して、限られた時間内に、横断的に検査や治療の優先順位を判断でき、外傷診療に精通したリーダーとなる医師の存在が不可欠です。また、単独部位の外傷であっても重症の場合には全身管理が必要となります。外傷専門医とは、このような必要性に基づいて、救急科、外科、整形外科、脳神経外科、麻酔科、放射線科、形成外科などの基本領域の専門医取得の上に、更なる臨床経験を積み、より高度な知識と技能を修得することで形成されるサブスペシャリティ領域の専門医です。
救急科専門医は外傷初期診療能力が求められますが、難易度の高い蘇生技能や周術期の集中治療全体を行う能力は必要とはされてはいません。外科系専門医取得者は、それぞれの領域における外傷診療能力は求められていますが、基本領域を横断するような知識や判断能力までは必須とされていません。よって、外傷専門医という横断的なサブスペシャリティを設定し、診療の質を確保することは、国民の医療福祉に大いに貢献します。
現時点において外傷専門医は、著しく不足していると考えられます。本学術集会に参加して外傷専門医を目指しましょう。
外科系専門医の皆さんへ
外科、整形外科、脳神経外科、麻酔科、放射線科、形成外科などの基本領域の専門医は、各分野で重症外傷の診療にあたられていると思います。しかしその戦術は、先輩医師より教わった方法であり、時に失敗し患者を失ったはず、重篤な後遺症を残したはずです。本学術集会の症例報告にその答えがあります。教育講演にその答えがあります。横断的な知識を身につける必要はなく、これからも専門領域の診療で十分な医師こそ、この学術集会で得るものは多いでしょう。事前にプログラムをめくって、効率よく学習してください。
そして本学術集会へ参加を考えている全医師の皆さんへ
「今明秀が会長を務める学会だから、キット何かある」と、思っていませんか。
待っています。八戸で。
サッカーワールドカップ予選ポーランド戦を前に記す。
頑張れニッポン、頑張れ柴崎、頑張れ日本外傷学会、頑張れ日本の医師たち。