第33回日本総合病院精神医学会総会/会期:2020年11月20日(金)・21日(土)

ご挨拶

大会長

第33回日本総合病院精神医学会総会・学術集会の大会長を賜り大変光栄に思っています。私は昭和63年に東京医科歯科大学医学部精神神経科に入局して以来、(故)守屋裕文先生を「リエゾン精神医学の師」と仰いできました。平成2年10月からの2年間は都立広尾病院神経科で、親分肌で男気のある恩師の熱い指導を受けました。恩師は多職種の『わ』によるチーム医療をとても大切にされました。今でも「(リエゾン対応もしていた夜勤当直の際に身体科病棟の看護師からコールがある時は)本当に現場で困っているのだから、気持ちよく対応して、できるだけ早く現場に駆け付けなくてはいけない」という恩師の金言が私の心に残っています。私は受け持ちをしていた若い女性患者が院内で墜落自殺したことをきっかけに、平成4年10月から恩師が橋渡ししてくれた北里大学病院救命救急センターで救命救急医療の研修をしました。当初は半年の約束でしたが、この世界にすっかり魅せられ、このまま救命救急医療現場に残って救急医のみならず精神科医として自殺企図患者の診療に貢献したいという思いを恩師に伝えた時には、「お前はその世界の方が向いているから骨を埋めてこい」と背中を押してくれたのです。その恩師が設立に多大な貢献をしたこの学会の総会・学術集会を主催することは本当に大きな喜びであります。

今回の学術集会のメインテーマは恩師を追悼する思いを込めて“『わ』で挑むリエゾン精神医学”とさせてもらいました。リエゾン精神医療は精神科医・看護師・公認心理師・薬剤師・精神保健福祉士など多職種の『和』による協働と、多職種が対等の立場で『輪』になって中心に位置する患者の診療にあたるチーム医療が重要です。学会としては、日本すなわち『和』や『倭』の力を世界に向けて発信することも重要です。2019年はラグビーワールドカップ(WC)日本代表が初のベスト8進出を達成するという快挙に日本全体が大いに沸きました。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの掲げた「ワン・チーム」というテーマのもとに、外国人選手も加えた様々な文化を持つ選手が、様々なポジションを分担しながら強く結束し、屈強なフィジカルのランク上位(「ティア1」)の外国チームに挑み、互角、それ以上の戦いをした姿に感動しました。この「ワン・チーム」の『ワ』の精神こそ“『わ』で挑むリエゾン精神医学”に通じるものがあると思います。何よりも『わ』を重んじた恩師がラグビーをこよなく愛した理由をこの大会を通じて理解することができました。

本学会では各委員会の主催するシンポジウム等に加えて、『わ』をテーマとしたシンポジウム、救急関連学会との合同シンポジウムなどを考えています。また、(故)守屋裕文先生を追悼する企画に加えて、東日本大震災から10年を迎えるにあたって、福島第一原発から4.6kmに位置した双葉病院にまつわるエピソードを振り返りながら、当時の病院長で2019年に亡くなった鈴木市郎先生を追悼する企画も考えています。皆様のご協賛を得て記憶に残る総会・学術集会になれば幸いです。

大会長 上條 吉人
(埼玉医科大学病院救急センター・中毒センター)